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摂食障害は長期化することも多く、いつ治るのだろうか、本当に治るのだろうかと不安になる方も多いと思います。どのように回復していくのか、いろいろな例をみてみましょう。

神経性やせ症のAさんの例

Aさんは中学生の頃からダイエットをきっかけに太るのが怖くなり、体重が減り、摂食障害になりました。低体重と下剤の大量使用、食べ物をかむだけで飲み込まずに出すこと、排便へのこだわりなどが主な症状でした。低体重のため入院も数回しました。その後は、親子関係が変化し、親に遠慮せずに相談でき、親もそれを受け入れられるようになりました。アルバイトで学費を稼いだ後、医療関係の資格を取得し、一時摂食障害はほぼ治り下剤を使い過ぎることもなくなりました。その後総合病院の第一線の職場に勤務しましたが、うまく仕事ができず、対人関係でのつまずきなどもあり自信を失いました。それをきっかけに体重が減り、摂食障害が再燃してしまい、何度か転職を繰り返しました。しかし、30歳代で結婚しフルタイムではなくパートタイムで勤務するようになって余裕もでき、妊娠出産希望があったことから治したい気持ちがより強くなり、食事量を増やすことができました。また、病院では医師の診察だけでなく、心理士のカウンセリングも併用し始めました。主治医と目標体重を設定し、なんとか肥満恐怖と戦い目標体重を達成でき、その後妊娠できました。妊娠中も様々な不安に悩まされましたが食行動は落ち着き、無事に出産しました。母子ともに健康で、不安や体重やカロリーが気になることは時々ありますが、元気に子どもを育てています。

神経性過食症のBさんの例

Bさんは、20歳代に職場で異動し人間関係に悩むようになった頃から、過食嘔吐が始まりました。外来通院を開始し、何度か病院を替えました。数年後体重減少のため、3ヶ月ほど入院しました。入院後は体重を増やすことができ、しばらく自宅療養をしてから、職場に復帰できました。その後は体重が減ることは無く、神経性過食症の状態で、毎日過食と嘔吐をしながらも、きちんと自宅から勤務できている生活が10年以上続きました。病気を治したい、変わりたいという気持ちが高まったので、カウンセリングを開始することになりました。カウンセリングでは、親の敷いたレールの上を歩まざるを得なかったこと、今も家族からの過干渉がつらいこと、感情にフタをしてしのいでいることなどを話し、自分の気持ちを整理することができました。さらに、人との交流の仕方や、自分が陥りやすい思い込みについてもカウンセリングで取り組みました。会社の移転に伴い、一人暮らしを開始することになり、家族と離れて自分のペースで過ごし、自分の納得できる食事を摂れるようになってからは、過食嘔吐の頻度は激減しました。現在はたまに機会があってお酒を飲んだときや実家に戻った時に、過食や嘔吐をすることがあるだけとなっています。

神経性やせ症Cさんの例

Cさんが神経性やせ症を発症したのは17歳の時でした。友人からの「ぽっちゃりしている」との言葉をきっかけに極端なダイエットをしたのが始まりでした。体重は30kg台まで減りましたが、どんなにやせても「やせたい」という思いは止まるどころか強くなる一方でした。拒食は長くは続かず、ある時「食べて吐けばいいんだ」と思うようになり、過食と嘔吐を一日になんども繰り返すようになりました。発症してしばらくしてから初めて病院を受診しました。なかなか治らないCさんを見かねた両親にうながされ、いろいろな病院を受診しましたが、通院は続かず、体重は増えず過食と嘔吐の症状もあまり改善しませんでした。その時は治りたいという思いがそれほどなかったとCさんは振り返ります。40歳になってからも症状は続いていたため、主治医にすすめられて専門的な治療を行なっている病院で入院を経験しました。入院して体重は増加しましたが、長年やせることばかりで他に何もできてこなかったことから、退院しても、これからどうやって生きていけばいいのかわからず、恐怖でいっぱいになりました。Cさんは外来通院での主治医との話の中で、もともと自分に自信がなく、言葉で感情を表現するのが苦手なタイプであることに気づきました。また、弟が病気がちで両親の注目が弟にばかりいっているように感じていたことから、自分の思いを、病気を通して両親に表現しようとしていたことに気がつきました。そう気づいてから、Cさんは主治医との面接や自宅で、両親に対してこれまでの思いをしっかりと言葉で伝える努力をしました。しばしば大喧嘩をすることもありました。そうする中で、体重を維持することができるようになり、過食・嘔吐も次第におさまっていきました。一方で、少しずつ社会に近づくために、まずは小さな書道の教室に通うようになりました。それがきっかけで、様々なことに興味が湧き、アルバイトができるまでになりました。5年間の通院の終盤には、自分自身の目標が見つかり、定職に就くことができました。やせることに頼らず生きていく自信がつき、30年近く続いた食行動の問題は改善し、標準体重を維持できるようになりました。

男性患者Dさんの例

Dさんは30代の男性です。高校を卒業して就職した後、職場の人間関係で悩むようになり、それとともに食欲がなくなって数ヶ月間で10kg以上も体重が減りました。ある日友人と食事をしたのをきっかけに、ものすごく食べたい気持ちが強くなり、家にあった食べ物を手当たり次第食べてしまいました。その後この衝動はたびたび生じるようになり、体重も増えて、太ったと気にするようになりました。あるとき気持ち悪くなって吐いてしまったところ、気分もすっきりしていることに気づきました。最初はイライラしたときにのみ過食・嘔吐をしていたのですが、いつのまにか習慣化して毎晩するようになり、自分では止められなくなってしまいました。本やインターネットでいろいろ調べ、自分は過食症かもしれないと思ったものの、何を見ても「女性に多い病気」と書いてあるため、恥ずかしくて誰にも言えませんでした。しかし数年前から、夜中まで過食・嘔吐しているので朝なかなか起きられず、憂うつな気分も生じてきて仕事に支障を来すようになりました。そこで思い切って病院を受診してみたところ、自分以外にも男性患者がいることが分かり、少し安心することができました。薬を飲んだことでうつ気分が改善し、医師の勧めで高校の部活でやっていたテニスを再開したところ、新しい友人ができました。そしてテニスや友人との時間を楽しむようになると、過食の衝動が生じない日が出てきました。過食・嘔吐はまだ完全になくなってはいませんが、回数はとても減り仕事もきちんとこなせるようになっています。

神経性やせ症のEさんの例

Eさんは優しい性格で、充実した学生時代を過ごしました。金融機関で働き、31歳で結婚、間もなく子どもにも恵まれました。出産後には退職しようと考えていましたが、上司の希望を断れず、仕事を続けました。育児をしながら働くのは思いのほか大変でした。夫は残業が多く、Eさんは「自分が頑張らないといけない」と考えました。忙しいときには食事を抜き、1日1食という日もありました。体重が減り、夫に心配されましたが、体調は悪くなかったので大丈夫だと思っていました。ところが、33歳のときに体重が40kgを切り、月経が止まりました。ここで初めてEさんは不安になりました。食べれば治ると思っていましたが、なぜか食べることに対して抵抗感がわき、少ししか食べられませんでした。夫の付き添いで精神科を受診したところ、神経性やせ症がどのような病気であるかの説明を聞き、体重を回復させることが大切であることを知りました。Eさんは仕事の負担を減らしてもらい、夫はくじけそうになるEさんを励ましてくれました。次第に食べられる量が増え、体重も増えました。月経はまだ戻っていませんが、主治医の先生からは「体重が回復すれば、月経も戻りますよ」と言われ、安心して治療に取り組んでいます。

ここで紹介した例は、実在する特定の患者さんではありませんが、実際の患者さんでよくみられるような流れを分かりやすくまとめています。

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