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10代のあなたへ -ひとりで悩んでいる方へ-

自分は摂食障害かもしれないと悩んでいる10代のあなたへ。ご自分でも病気かなと疑っているが誰にも相談できず、辛い日々を送っていませんか?しかし、怖がることはありません。正しい診断と治療を受けることによって身体も心も良くなってきます。ポータルサイトを覗いてくれたあなたの勇気に感謝します。ひとりで悩まず、摂食障害とはどのような病気なのか?確かめてください。摂食障害は乗り越えることができる病気なのです。

10代の摂食障害の特徴

  • (1)摂食障害の種類

    思春期に発症する摂食障害の多くは神経性やせ症(AN)です。その90%以上が食物摂取を制限する摂食制限型(AN-R)、いわゆる拒食症です。AN-Rで発症し経過中にむちゃ食い(過食)を認めることがあります。多くは中学生以降であり、嘔吐や下剤の乱用などの排泄行為を認めるものと認めないものがあり神経性やせ症(むちゃ食い・排出型AN-BP)と診断されます。長期的に過食が続き体重が正常化してもなお症状が継続する神経性過食症(BN)、 排泄行為がなく低体重を認めないむちゃ食い障害もあります。いずれにせよ、むちゃ食い症状は高校生以降に増えていきます。なお、思春期に発症する摂食障害の一つに、「明らかなやせ願望」がないにも関わらず、低栄養状態が続く回避・制限性食物摂取症(ARFID)も多くみられますので注意が必要です。

  • (2)やせ願望のない回避・制限性食物摂取症ARFIDとは

    ARFIDは、必要以上のやせ願望や太ることへの恐怖を認めない特徴があります。自分が痩せているのに太っていると感じてしまうなどの神経性やせ症とは異なり、痩せていることを自覚していることが多いです。ARFIDは、軽度の不安・抑うつとともに体重減少をきたすもの、腹痛・嘔吐などの恐怖から食物を回避するものなど、神経性やせ症とは異なる摂食障害の一つです。ARFIDかなと不安になった時は、専門家に相談してみましょう。

10代の摂食障害は増加している

摂食障害は文化的背景が異なっていても全世界で思春期前後の子どもの健康に関連して発症し、患者数は増えています。日本の調査では、1982年、2002年の拒食症、過食症の有病率の推移をみると、拒食症は0.11%から0.43%、過食症は0%から2.32%、全摂食障害は1.18%から12.7%、と全ての病型で著明に増加しています。

また、コロナ禍の影響も見過ごすことはできません。摂食障害学会による2022年の全国調査では、10代ANとARFIDの新規患者数を比較すると、2020年は2019年に比べ約1.5倍、2021年は約1.8倍に増加していました。この傾向は欧米各国の調査でも同様です。コロナ禍による社会環境の変化に伴い、人的交流の減少、SNSやメディア報道(コロナ太りの報道など)などが10代女性に大きく影響を及ぼしたと考えられます。一方で、摂食障害になると頭の中が食べ物や体型のことでいっぱいになって、食べ物の写真ばかりSNSで検索したり、閲覧したりすることもあります。

どのくらい痩せたら摂食障害を疑うのか?

身体がやせているだけで摂食障害と診断されるわけでありません。重大な身体の病気が隠れている可能性も否定できないのです。具体的には、脳腫瘍、内分泌疾患、膠原病、消化器疾患など様々な病気との鑑別が必要です。そのため、必ず身体の検査を受けなければなりません。やせの基準は、15歳以上はBMIで計算しますが、15歳未満は年齢に合わせた標準体重で計算します。健康を維持できる体重の目安は、標準体重85~90%(BMI18~20)以上です。標準体重80~75%に減少、あるいは直近の8週間で週1㎏のペースで体重が減少したら、親や学校で相談し必ず病院を受診してください。

成長期の極端なダイエットが身体とこころへ及ぼす影響

成長期の慢性的な低栄養は成人になっても様々な身体とこころの症状に影響するので、早期発見と早期治療が特に大切です。

  • (1)成人になった時の身体への影響

    ホルモンのバランスを崩す結果、骨粗しょう症や無月経、身長の伸びの停止などがみられます。性ホルモンの分泌能が著しく低下するために生じる症状です。本来160㎝まで伸びる予定でも、140㎝くらいで伸びなくなる場合があるのです。性ホルモンが低下すると骨密度も低下するので、成人になった時に骨粗しょう症発症のリスクが高くなります。運動時病的骨折のリスクも高くなるので、特に激しく運動活動する人は注意が必要です。性ホルモンの低下は、初経の遅れ、無月経の要因となりこの状態が続けば妊娠に支障をきたす可能性もあるのです。腎機能障害、脳の萎縮もみられるようになります。

  • (2)こころの影響

    気分の落ち込みやイライラ感や不安、こだわりが強くなってきます。体力低下に伴い授業参加が難しくなる、優秀な成績が取れたひとでも集中力が低下し成績が維持できなくなることもあります。イライラして親や友達との関係がうまくとれず、仲間から孤立してしまうなど日常生活にも支障がでます。しかし、これらの問題の多くは食行動が改善すると軽減します。

思春期の課題

思春期の真っ只中にいる10代のあなたたちにとって日々感じていることかもしれませんが、改めて説明します。思春期は、こころの発達の面からは小学校高学年から高校生年代の時期に当たります。

思春期は、こころと身体が飛躍的に成長する素晴らしい時期です。ただ、心身の成長にアンバランスが生じやすい時期でもあります。この時期、家族と様々な要因で葛藤する問題が生じることもあります。10代を過ごすあなたたちにとって自分のこころのあり様について考えたりしないと思いますが、この年代のこころの特徴の一つにアンビバレンツ=両価性があります。例えば些細なことで母親に暴言を吐いてしまうことがある一方、クールダウンすると、母親に甘えている、他者からみれば一見矛盾した態度を示してしまうことがあります。大人になりたくない、と思うかもしれません。仲間と一緒に行動することで安心感を得ようとしますが、仲間関係が思ったように作れないと「もうだめだ」と感じたこともあったのではないでしょうか。思春期にみられる両価性の問題は、決して異常な問題ではありません。どんな大人たちもこのような思春期を程度の差はあれども通り抜けてきているのです。うまくいかないと感じた時こそ、家族とよくコミュニケーションを取り理解し合うことが大切です。高校生頃になると、「自分は自分、他者は他者(これを自我同一性といいます)」が確立し、中学生の頃のような「みんなと一緒でないといけない」という気持ちから離れていけるかもしれません。大人になっていくということは、良くも悪くも自分と違う他者を受け入れることが可能になっていくことかもしれません。

10代の摂食障害の治療法は?

AN-Rの治療は、著しい低栄養状態のときは家族や医師が食べるように説得しても理解することが難しい場合が多く、心理的な介入よりも栄養を補給(再栄養)することが優先されます。治療は外来診療が基本ですが、身体症状を診て入院することもあります。本人たちと話し合いながら行動制限療法(体重が増えることによって制限された行動が解除され、本人も身体の状況が良くなれば摂食障害が良くなると認知できるようにすること)は、基本的な方法です。どうしても経口で食べられない場合は、生命維持に必要な治療が行われます(例えば、鼻からの胃にチューブで栄養を入れることや、中心静脈カテーテルを用いた高カロリー輸液です)。

心理療法としては、BNは認知行動療法CBT-E(Cognitive Behavior Therapy and Eating disorders)、10代ANでは家族療法Family Based Treatment (FBT) の効果が証明されています。

現在のところ、わが国で10代の摂食障害に有効性と安全性が確認された薬物療法はありません。特に10代には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬は、さまざまな副作用から慎重に使用すべき薬剤となっています。

10代のあなたを取り巻く環境と摂食障害

  • (1)みんなダイエットしているのになぜ自分だけが病気なの?

    確かにダイエットしない女子の方が少ないかもしれません。現代は、やせている身体は美しいという社会的風潮が当たり前のようにみえます。このような痩せ体型を礼賛する社会心理的な圧力によって、やせ願望は当たり前の社会となってしまいました。

    では、ダイエットしている多くの人が摂食障害に陥らないのはなぜでしょう?やせ願望と関連する心理的要因として自尊感情(自分を大切に思う気持ち)の低下があります。自分の体型に対する満足度が低いと自尊感情も低く、望ましくない自己像を補償するためにダイエットに繋がると考えられます。摂食障害になる前から完全主義な性格などであることが指摘されています。

    あなたは、勉強も運動も仲間関係も今まで完璧にこなしてきた努力家ではないでしょうか?その一方、それでも物足りなさ、このままだといつかダメになる、という漠然とした不安感があるかもしれません。ダイエットする際も、自分自身をしっかりみつめ、日常の中で「うまくできていること」を思い出し、自分自身を褒めてあげることが大切です。あなたは、既に多くを達成しているのです。

  • (2)学校へ行きたいが、体育・部活や給食が気になる

    学校に登校することは、生活リズムを整える意味でも大切です。しかし、痩せすぎた身体で体力もない状態では、無理な登校はかえってあなたの身体症状を悪化させてしまいます。医療機関を受診すれば医師は、身体の状態を把握し、どの程度あなたが行動しても良いか基準を設定してくれます。例えば、体重があと2㎏増えるまでは、登校は許可するが午前中登校とし給食は食べずに帰宅する、体育は見学(あるいは、負荷の高いマラソンは禁止など)、放課後の部活は休む、など体重によって行動の基準を決めてもらうと良いでしょう。給食が食べられない場合は、担任と相談して、弁当を持参できるか?教室で食べるのが辛ければ別室で食べるような設定も検討しましょう。給食を食べずに午後の授業まで頑張るのは低血糖の心配があるので無理しないでください。登校を維持できている時は、週1回でも保健室で体温、脈拍、血圧など計測してもらいましょう。また、家庭で体重計測にこだわって辛い場合は、学校で週1回程度体重計測してもらう方法もあります。

年齢に応じた受診先は?

最初に記載したように、やせているだけで摂食障害と決めつけてはいけません。摂食障害かな?と気がついたら、できるだけ早く近隣の医療機関を受診してください。診察の結果、さらに専門医療機関を紹介されるかもしれません。小学生や中学生は、かかりつけの小児科、総合病院小児科、児童精神科を、高校生以上は、成人精神科、心療内科、内科(内分泌科、消化器内科など)を受診してください。産婦人科、歯科(嘔吐による虫歯)を受診しても相談は可能です。もし、受診する診療科が分からない時は、全国の摂食障害拠点病院で相談も可能です。

相談できないと感じたら?

もしあなたが摂食障害かな?と気がついたら、もっとも信頼できる人に、今の状態を伝えてください。でも、家族にはどうしても隠したい、相談できないと感じている。あるいは「自分は病気じゃない」と思い込んで不安な気持ちを閉じ込めてしまっているかもしれません。これは、摂食障害になった患者さんによくある症状のひとつです。ここでひとまず冷静になって自分の身体の状態に気を配りましょう。

身体の不調がありませんか?

朝起きるのが辛い、体温が低くて寒く手指末端が冷える、足が浮腫む、髪が抜ける、虫歯が増えた、月経がない、胃痛が酷い、嘔吐する、それは摂食障害による可能性が高いのです。あなたは心の病気と言われるのが一番嫌かもしれません。まず、身体の診察を最優先して診療を受けてください。診察を受けると少しほっとするでしょう。その為には、躊躇せずにご家族に今の症状を相談してください。もし、ご家族に相談できない時は、ひとりで悩まず、担任、養護教諭、部活顧問など、あなたが信頼できる大人に相談してください。あなたは「食べない痩せた悪い子」ではなく、「食べられない程辛さを抱えている」ことを、あなたの周囲のひとは理解しようとしてくれます。これまでかかえてきた摂食障害は自分の体とこころにとってどの位の大きな問題なのか?あなた自身が知ることが大切です。そして、ご家族や主治医と一緒に、摂食障害を退治する方法を考えていきましょう。必ず道はあります。あなたは、今、一人で戦う必要はないのです。

参考資料
  • 1)清田晃生:思春期のこころの発達と問題行動の理解.e-ヘルスネット
  • 2)日本小児心身医学会(編): 小児心身医学会ガイドライン集, 第2版, 南江堂, 東京, 2015
  • 3)マリア・ガンシー.井口敏之、岡田あゆみ、荻原かおり(監修/監訳):家族の力で拒食を乗り越える.星和書店、2019
  • 4)作田亮一: 子どもの摂食障害:早期発見と包括的治療. 日本小誌123, 548-557, 2019
  • 5)ブライアン・ラスク、 ルーシー・ワトソン:わかって私のハンディキャップ③摂食しょうがい.食べるのがこわい,作田亮一(監修).大月書店,2015
  • 6)おちゃずけ, 作田亮一(監修): 10代のための もしかして摂食障害?と思ったときに読む本.合同出版,2021
  • 7)作田亮一: 小児領域における摂食障害. 医学と薬学77(9):1259-1264, 2020
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