摂食障害の治療

心理療法

摂食障害は心身両面に症状が生じ、心理的対応が欠かせない。そのためにはまず良好な患者―治療者関係を築くこと、受容的な態度が基本となる。摂食障害の症状そのものだけでなく中核にある低い自己評価や完全主義も扱う対象となる。個々の技法について、治療効果のエビデンスが確立したものは多くはないが、以下のようなものがある。

<神経性過食症>

神経性過食症については、認知行動療法1)の効果が知られている。過食・嘔吐などの症状のみに働きかけるよりも、身体イメージなどにも焦点を当てた方が効果が高いとされている。認知行動療法を活用したより簡略な「ガイデッドセルフヘルプ」の方法でも効果がある場合が多いとされ、英国のNICEガイドラインでは、治療の第一段階として推奨されている2)。この治療は、心理教育、症状モニタリング、生活の規則化などの要素からなる。これらは神経性過食症の心理治療の基本と言えるだろう。また、神経性過食症では、対人関係療法の効果のエビデンスも知られている2)。神経性過食症については、症状のコントロールに自分自身で取り組むこと、また一方で、過食や排出行動だけでなく、背景にある身体イメージや自己評価、対人関係などの心理的問題に取り組むことが重要だと言えるだろう。

<神経性やせ症>

神経性やせ症については、医療的処置の併用の必要性や治療中断の多さから、外来での心理的対応については、エビデンスが出しにくい分野である。また、入院でも、体重増加のみに焦点が当てられがちで、標準化された心理的対応はない。社会復帰に向けた心理的援助方法の確立も望まれる。再発予防の段階では、認知行動療法を用いる試みもある。

近年は、慢性事例が増加しており、これらに対し、必ずしも大幅な体重増加を目標としない、社会参加促進のための心理的援助を行うことが必要とされている。また、摂食障害を持ちながら育児をする患者も増えているが、自身の症状だけではなく、育児困難に対する援助を必要とする対象も多い。標準的治療はまだ確立していないものの、このような患者のニーズを理解して対応することが重要である。

治療効果のエビデンスが知られる心理療法

  • 1.神経性やせ症(思春期症例)に対する家族療法
  • 2.神経性過食症に対する認知行動療法
  • 3.神経性過食症に対する対人関係療法
  • 4.神経性過食症に対するガイデッドセルフヘルプ
    (心理教育、症状モニタリング、生活の規則化)
参考文献
  • 1) Fairburn, CG.Cognitive behavior therapy and eating disorders. The Guilford Press, New York, 2008. (切池信夫監訳.摂食障害の認知行動療法.医学書院,東京, 2010.)
  • 2) National Institute for Health and Care Excellence. CG9 Eating disorders: Core interventions in the treatment of anorexia nervosa, bulimia nervosa and related eating disorders. 2004.(http://www.nice.org.uk/guidance/cg9)

薬物療法

現在、日本では摂食障害が適応疾患に含まれる薬剤はない。海外では、摂食障害の薬物療法について、一定以上のエビデンスが示されているのは、神経性過食症に対する抗うつ剤の効果にとどまるが1)、さまざまな薬物療法が試行されてきている。薬物療法は、単独ではなく、栄養面の改善、生活リズムの改善、心理的援助と同時に実施することが望ましい。また、摂食障害は、併存する精神疾患も多いため、全般的な精神面の評価を正確に行った後に薬物療法を開始することが重要であるとされている。

<神経性過食症>

選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)の効果が知られ、特に、フルオキセチン、フルボキサミンに関する報告が多い。メタアナリシスによれば、抗うつ剤の過食・嘔吐に対する効果は中等度であるという2)。諸外国のガイドライン1)3)では、初期治療の一要素として、SSRIは有効であり、フルオキセチンをうつ病の初期治療よりも高容量60mgで使用するなどの方法が挙げられている1)3)

<神経性やせ症>

神経性やせ症については、強い認知の歪みに対する抗精神病薬の効果を期待し、非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)による治療が試みられることがある。過食排出型の神経性やせ症に対し、認知行動療法を実施しながらオランザピンを使用すると、プラセボ群より体重および精神面で効果が得られたとする報告などがある。クエチアピンについても、効果の報告はあるが、メタアナリシスによれば、まだこれら抗精神病薬に明らかな効果エビデンスがあるという結論には至っていない2)。諸外国のガイドライン1)3)では、神経性やせ症に薬物療法は積極的には勧めないが、精神症状が強い場合は、第二世代の抗精神病薬を使用しても良いという位置付けである。低栄養患者には副作用に注意し、慎重に投与することとされている。

参考文献
  • 1) National Institute for Health and Care Excellence. CG9 Eating disorders: Core interventions in the treatment of anorexia nervosa, bulimia nervosa and related eating disorders. 2004.(http://www.nice.org.uk/guidance/cg9)
  • 2) Mitchell JE, et al. Biological therapies for eating disorders. Int J Eat Disord 46: 470-477, 2013.
  • 3) American Psychiatric Association. Treatment of patients with eating disorders, Third edition. Am J Psychiat 163(7 suppl ): 4-54, 2006.

栄養療法

疾病教育の中で、栄養療法の必要性を丁寧に説明することは重要な要素であり、それが快方に向かうきっかけとなることもある。特に摂食障害に関連する内容として、4~6時間以上の絶食はしないことが過食衝動の軽減につながること、適切な栄養摂取(三大栄養素のバランスが重要)で血糖値が維持され精神状態も安定すること、栄養をとらずに運動だけしても筋力は増強されないこと、排出行動で失われる物質を補充する食品などについての指導が挙げられる。

栄養療法は特に神経性やせ症の治療において必要不可欠な治療であるが、著しい低栄養状態からの栄養療法開始時は重篤な合併症であるリフィーディング症候群のリスクが高いので慎重な対応が必要である。リフィーディング症候群は再栄養に伴う体液と電解質のシフトにより低リン血症・低カリウム血症をはじめとする電解質異常、浮腫や胸水等の水分貯留、ビタミンB1欠乏などが生じ時に致死的となる病態であり、リスク評価・予防・モニタリングが重要である。

外来では、急激な摂取エネルギー量の増加にならないように患者に説明し、1~2週間に最大0.5kgの体重増加を目安とする1)。全身衰弱、重篤な合併症、あるいは体重が標準体重の55%以下のような重症例では、入院による栄養療法が必要である。この場合、やはり急激な摂取エネルギー量の増加にならないように注意し、1週間に0.5~1kgの体重増加を目安とする1)。このほか、投与エネルギー量は少量から開始し漸増すること、カリウム・リン・マグネシウムの補充・頻回のモニタリングを行なうこと、ビタミンB製剤を投与すること(ウェルニッケ脳症の予防)などが必要とされる。再栄養のプロトコルについては欧米で提唱・検証が行なわれ議論されている1)2)3)

栄養療法は可能であれば経口摂取で行なう。食事に加え、効率的な摂取を期待し栄養補助食品が用いられることもある。経口摂取だけでは体重増加困難な場合は経腸栄養(経鼻胃管)を併用する。栄養剤を2~3回に分けて間歇的に投与する。胃膨満感や下痢、ダンピング様症状を防止するために、少量からゆっくりと投与し、増量する。重症例の場合は低血糖頻発または脱水著明であることから経静脈持続投与を必要とすることが多い。ただし感染のリスクに注意する。静脈栄養のみで栄養管理を行う場合、浮腫や胸腹水をきたしうるため、輸液量には注意を要する。中心静脈栄養については積極的には選択しないが、必要に応じて施行する。

栄養療法開始後に起こるからだの変化(浮腫、頻回採血の必要性、リン等の補充など)については、あらかじめ患者に説明しておくことが望ましい。

リフィーディング症候群の高リスク患者の判断基準1)

以下の1項目以上を有する
・BMI<16
・過去3 ~ 6か月間で15%以上の体重減少
・10日以上の経口摂取量減少あるいは絶食
・栄養療法開始前の血清カリウム、リン、マグネシウム低値
以下の2項目以上を有する
・BMI<18.5
・過去3 ~ 6か月間で10%以上の体重減少
・5日以上の経口摂取量減少あるいは絶食
・アルコールの乱用あるいはインスリン、化学療法、制酸薬、利尿薬を含む薬剤の使用歴
参考文献
  • 1) National Institute for Health and Clinical Excellence. Nutrition support in adults. Clinical guideline CG32. 2006. (https://www.nice.org.uk/guidance/cg32)
  • 2) Academy for Eating Disorders. A Guide to Medical Care. 2016. (https://www.aedweb.org/index.php/education/eating-disorder-information/eating-disorder-information-13)
  • 3) Hofer M. Nutrition 30:524-530, 2014.
  • 4) 日本静脈経腸栄養学会編集. 静脈経腸栄養ガイドライン第3版. 照林社, 2013.

身体管理

摂食障害、とくに神経性やせ症では患者本人の病識がないまま身体的に重篤な状況に陥っている可能性がある。初診時には一般的な診察に加えて血液尿検査、胸腹部単純撮影、心電図検査は必須である。血液検査では末梢血、生化学に加えて甲状腺ホルモン検査を行ない、低T3症候群の有無なども確認する。脱水の影響で一見データが正常に見える場合もあるので注意する。尿検査では尿比重やケトン体で脱水や飢餓状態を把握する。胸腹部単純撮影では胸水・腹水の貯留や皮下気腫の有無も確認する。長期にわたり下剤乱用が続いている症例では腸管に鏡面像が見られる場合もある。心電図検査では高度の徐脈やQT延長、虚血性変化に留意する。これらの検査結果を総合的に評価し、外来での管理が可能か否か判断する。また、脳MRI検査(脳萎縮)・心エコー検査(心機能低下、心嚢液貯留)・ホルター心電図(徐脈、虚血性変化)・骨密度検査(骨密度低下)などで異常が見られる場合、それらの説明が治療意欲の向上ににつながることがある。

摂食障害患者の主な身体所見・合併症

全身 るいそう、肥満、脱水、低体温、冷え性、ショック
脳神経系 脳萎縮、微小脳梗塞、意識障害、せん妄、痙攣、睡眠障害
頭頸部 う歯、歯肉異常、唾液腺腫脹
循環器 滴状心、徐脈、低血圧、QT延長、不整脈、虚血性変化、心不全、心嚢液貯留
呼吸器 胸水貯留、縦隔気腫、(誤嚥性)肺炎、肺結核
消化器 逆流性食道炎、食道破裂、Mallory-Weiss症候群、胃拡張、胃破裂、上腸間膜動脈症候群、肝機能障害・肝不全、下痢、便秘、痔核、脱肛、直腸脱、腹水貯留
腎・泌尿器 尿路感染、腎・尿路結石、腎機能障害、腎不全、尿失禁
内分泌 月経不順、無月経、低T3症候群
皮膚 浮腫、吐きだこ、皮膚黄染、紫斑、脱毛、産毛増生、凍傷、皮下気腫
筋・骨格系 骨粗鬆症、病的骨折、腰痛、関節痛、筋肉痛、横紋筋融解
血液検査所見 血液濃縮、貧血、白血球減少、血小板減少、汎血球減少、DIC、電解質異常、低血糖、高コレステロール血症、高アミラーゼ血症

緊急入院の適応と判断した場合、まずは脱水及び電解質の補正、血糖コントロールを行なう。心電図モニタリングをしながら補液を開始するが、補液量は500ml/日程度から漸増とし、脱水だからといって大量の水分負荷は行なわない。必要に応じてカリウム製剤やリン製剤、ブドウ糖などを追加してリフィーディング症候群(「栄養療法」参照)に注意しながら徐々に補正を行なっていく。脱水の改善に伴い貧血や低タンパク血症など本来の病態が顕著になってくるので、場合により輸血なども検討する。加療開始2週間後くらいに急性腎不全の回復過程で多尿となることがあるので、水分バランスチェックも行なう。

入院が望ましい身体的状況

  • 1.意識障害
  • 2.心拍数40/分未満の徐脈、QT延長、不整脈
  • 3.体温35℃未満
  • 4.低体重
    (年齢、性別、身長から期待される体重の55%未満またはBMI<15kg/m2
  • 5.重度の脱水
  • 6.著しい筋力低下(階段昇降困難など)
  • 7.心不全、肝不全、腎不全、膵炎、気胸・気腹・気縦隔、肺炎、上腸間膜動脈症候群
  • 8.リフィーディング症候群
  • 9.極度の浮腫
  • 10.電解質異常
    低カリウム血症(<2.5mEq/L)、低リン血症(<2mg/ml)

摂食障害患者の検査結果の異常は食行動異常と低栄養状態によるところが多く、これらが改善するとデータも概ね正常化することが多い。よって身体の危機的状況を脱した後は、栄養療法および食行動是正のための心理療法を開始する(「栄養療法」、「心理療法」参照)。データ異常に伴うリスクの説明を行なった上で定期的に体重測定と血液検査を行ない、改善が見られた場合には努力を賞賛し、増悪した場合には原因の検索と対策について患者と話し合い、対応策をとる。

いずれの段階でも患者本人は病識がないことが多いため、可能な限り家族とともに受診していただき、情報を共有することが望ましい。

参考文献
  • 1) 日本摂食障害学会 (監修), 「摂食障害治療ガイドライン」作成委員会 (編集):摂食障害治療ガイドライン. 医学書院, 2012.

家族へのサポート

摂食障害の中でも特に若年の神経性やせ症の患者に対しては、家族への介入の有効性のエビデンスが積み重ねられ、国内外のガイドラインでも、家族に対するサポートまたは家族療法を行なうことが推奨されている1)2)。専門的な家族療法の提供が困難な場合でも、摂食障害の治療計画にできる限り家族を組み込み、家族に基本的な心理教育やサポートを提供することが必要であろう。家族支援のポイントには以下のようなものがある。

①家族への視点‐家族は原因ではなく回復の資源

摂食障害は複合的な要因から起こるものであり、家族や育て方が病気の原因であるという明確な証拠はない。しかし、発症してからの家族の対応は予後に大きく関わり、家族からの有効なサポートは患者の回復に大いに貢献する。支援者は親の自責感に留意しながら、「摂食障害を発症したのはご家族の責任ではありませんよ」「病気の治療にはご家族の協力が必要です」というように、このことをはっきり伝える必要がある。

②エンパワーメントと心理教育

家族支援には、家族自身が力をつけ、自分自身の力で問題を解決できるように援助するエンパワーメントの視点が欠かせない。そのためには、疾患に対する正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え、疾患の結果もたらされる諸問題・諸困難に対する対処技能を高める心理教育が必要である。心理教育においては、症状のメカニズム、症状の背景にある患者の心理、治療や回復までの見通しなどの情報提供を行ない、摂食障害を外在化し患者と分けて考える対応、話の聞き方や伝え方のスキルなどを伝え患者への対処スキルを増大させる。

③家族の負担とメンタルヘルスへの配慮

摂食障害の患者をケアする家族の負担は時に非常に大きく、親自身が疲弊していたり、メンタルヘルスを害していたりする場合も多く、配慮が必要である。必要な場合には、親自身へのセルフケアを推奨し、心理・社会的なサポートを提供できることが望ましい。

  • 1) American Psychiatric Association. Treatment of patients with eating disorders, third edition. Am J Psychiatry 163 ; 4-54, 2006.
  • 2) 日本摂食障害学会 (監修), 「摂食障害治療ガイドライン」作成委員会 (編集):摂食障害治療ガイドライン. 医学書院, 2012.